判断不十分者を狙った次々販売
【 国民生活センターHPより転載 】
高齢者や判断不十分者をターゲットとしたいわゆる次々販売の被害が後を絶たない。被害者が高齢の場合、その後の生活ができなくなるほどの被害を被ることもある。今回は、当事者が高齢でかつ判断不十分者であるため成年後見制度の被補助人として登録されていた事例を紹介する。
相談内容
2年前に姉の成年後見制度の補助人となった。姉が一人暮らしをしていた1年半ほどの間に、訪問販売業者と複数の契約をしていた。分かっているだけで500万円もの契約があり、貯蓄がほとんどなくなっている。さらに、以前来たことのある営業員に勧められるまま、高齢者支援への投資という名目で2,000万円近いお金を渡したらしい。領収書などは何も残ってなく、営業員の所在も不明なため、このお金についてはあきらめている。
姉は幼少時より判断力が不十分で、日常の簡単な買い物以外の内容を理解していない。そもそも成年後見制度を利用することになったのは、数年前に複数の訪問販売業者と必要のない多額の契約をして、センターを介して解約した経緯があったためで、その直後に成年後見制度の手続きを行った。
姉が契約を理解していたとは考えられず、今後の生活に差し支える。何とか助けてほしい。
(70歳代 男性 自営業者、当事者:70歳代 女性 無職)
処理概要
国民生活センター(以下、当センター)で、契約書等を確認したところ、契約内容は次の8件、契約総額約530万円であった。
- 床下換気扇設置工事 A社 約60万円
- 磁気活水器 B社 約40万円
- 耐震工事 C社 約20万円
- 羊毛ふとん D社 約30万円
- ふとん E社 約30万円
- 屋根瓦吹き替え工事 F社 約250万円
- 床下乾燥剤散布(1) G社 約70万円
- 床下乾燥剤散布(2) G社 約30万円
このうち自社割賦で支払中のD社のふとん契約を除き、約500万円は現金で支払い済みであった。契約した商品等はすべて引き渡し済み、工事済みであった。
本人からも直接聞き取りを行ったが、成年後見制度の審判書にあるとおり、日常会話には不自由を感じなかったが、契約の細かい話になるとまったく理解しておらず、商品の必要性や金額の妥当性についても認識していたとは見受けられなかった。しかし、大変な事態になり弟に迷惑をかけていることでひどく傷ついていることが感じられた。
「販売および契約が正当に履行されたか」といった点について確認するには、本人の理解が不十分であり、また契約からずいぶん時間がたっていた。さらに、当該契約は被補助人として法律的には容認されている内容であり、被補助人であったことのみを根拠に解約交渉をすることは困難と考えられたため、診断書や審判書より、当事者が判断不十分者であったことと、いわゆる次々販売の被害者と見受けられることを理由に解約交渉に臨み、事業者の対応によって対策を立てることとした。
その結果、8件の契約のうち、4件(耐震工事、ふとん、屋根瓦吹き替え工事、床下乾燥剤散布(1))については、当センターからの申し入れに対して理解を示し、全面解約に応じた。
全面解約に応じなかった羊毛ふとんの販売業者は、商品の確認を行い、ふとんがかなり利用されたことを理由に、約30万円の契約金額のうち、約5万円の負担を求めてきた。これについては補助人と相談のうえ合意した。
全面解約を渋った残り3件(床下換気扇設置工事、磁気活水器、床下乾燥剤散布(2))の事業者に対しては、再度事情を説明するとともに、当該契約の必要性の根拠とその効果について説明を求めた。
磁気活水器の事業者は明確な根拠の提出をせず、交渉は平行線であったが、補助人とも相談のうえ何度か減額交渉を行い、約40万円の契約のうち、約6万円を負担することで合意した。
床下換気扇設置工事と床下乾燥剤散布の事業者は関連会社であった。1年ほどの間に床下換気扇、防湿材、シロアリ駆除剤などを次々に販売しており、常識的に判断して、このような大量の措置が必要とは考えられないため、必要であったというのならその根拠を提示することを求めた。
結局、床下換気扇設置工事については事業者は全面解約を了承、床下乾燥剤については、約70万円の契約のうち、約13万円を負担することで合意した。
これにより、総額約530万円の契約のうち、約24万円を負担することで終了した。
問題点
明らかに判断不十分者であっても、それをもって契約を取り消すことはなかなか難しい場合が多い。本事例も、常況からみて、本来ならばすべて取り消しになるべきと考えられたが、事業者は強硬であった。そのため、補助人と相談しつつ、できるだけ被害の回復を図ることとした。
高齢者や判断不十分者の保護をその目的の一つとして、成年後見制度が施行された。しかし、制度については周知されつつあるものの、まだ、十分に活用されているとはいえない状況にある。今回の相談についても、補助人の代理権と取消権の範囲が及ぶかどうか微妙な契約が複数あった。また、被補助人、補助人との関係とはいえ、姉と弟という関係であるため、お互いに遠慮があり、姉の財産を弟が管理することに躊躇があったことも見受けられた。
しかし、相談処理においては、補助人の申し立て時の診断書や審判書が交渉の糸口になった。各家庭の事情もあり、この制度の利用に抵抗のある人も多いだろうが、消費者被害救済の一助となることは明らかであろう。消費者啓発の一環として、このことを広く周知させることも必要であると考える。
(本事例の紹介については、補助人の同意を得ている)
【 原文 】
判断不十分者を狙った次々販売
http://www.kokusen.go.jp/jirei/data/200505.html