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隣地住人による建築妨害が宅地の隠れた瑕疵に当たるとされた事例

【 国民生活センターHPより転載 】

建物建築トラブル情報


本件は、購入した土地に建物を建築することを脅迫的言辞をもって妨害する者が隣地に居住しており、今後も妨害の継続 が予想される場合、本件売買土地は、宅地として通常保有すべき品質・性能を欠いているとして、民法570条の瑕疵(かし)担保責任に基づく損害賠償請求を 認めた事例である。(東京高裁平成20年5月29日判決)

  • ・『判例時報』2033号15ページ
  • ・確定

 

◆事件の概要

原告(被控訴人):
X(消費者)
被告(控訴人):
Y(売主)
関係者:
A(隣地の住人)
B(本件工事を請け負った会社の代表者)

 Xらは、平成17年3月23日、Yらから、住宅を建築する目的で、本件売買土地を代金5170万円で買った。

 物件目録記載一の土地(本件敷地部分)は、建物の敷地として使用できる部分であり、同二の土地(本件セットバック*部分)は、本件敷地部分の北西側に接 し、建築基準法42条2項の規定により道路とみなされる部分であり、同三の土地は、本件セットバック部分の北西側に接する私道(本件私道)の共有持分であ る。

 本件私道を挟んで本件敷地部分および本件セットバック部分の反対側(北西側)の宅地(本件隣地)の上の建物にAが居住している。

 Xらは、平成17年11月15日に本件敷地部分に建築する予定の建物について建築確認を受け、同月24日に地鎮祭を行い、建築工事を請け負ったBと一緒に近隣に挨拶(あいさつ)回りをした。

 Bは、その日の夜、Aから電話を受け、脅迫的な口調で、「事前に施工者として、図面を持って説明に来るのが筋だろう。明日の午前9時30分までに来い」という趣旨の申入れを受けた。

 BとXらは、同月26、27日にA宅を訪れ、建築確認を受けた建物の設計図面を示すなどして説明をした。しかし、Aは、Bにその建物を本件敷地部分に建 てた場合に生じる日影の状況を実験させるなどしたうえ、その日影がA宅の建物の縁側に届くなどとして怒り、BとXらに対して「ばか野郎」などと繰り返し怒 鳴りつけながら、「法律も区の判断もどうでもいい。自分の家の縁側に影がかからないことがすべてだ」「この図面はインチキだろう。俺(おれ)をだまそうと しているのだろう。若いやつらが動くぞ」「俺は有名な右翼だ」「俺はおまえのようなやつを殺したことがある」などと脅迫的で威圧的な暴言を並べ立て、設計 の変更を強く迫った。

 Aからこのような要求を受けたXらは、警察署、近隣住民、建築会社などからAに関する情報を入手し、Aが暴力団関係者である可能性があり、その意向を無 視して本件敷地部分に建物の建築を強行すれば、Aやその意を受けた者から、どのような危害を加えられるかも知れないと考えて畏怖(いふ)し、その建築を中 断した。

 このような状況で、Xらは、Yらに対し、このような住人が隣地に居住していることは同宅地の隠れた瑕疵に当たる、または、Yらがそのような住人が隣地に 居住していることをXらに説明しなかったのは説明義務違反に当たると主張して、瑕疵担保または債務不履行による損害賠償請求権に基づき、損害金5630万 1360円の支払いを求めた。

 原審が1551万円を限度にXらの請求を認容したところ、Yらはこれを不服として控訴した。

* 土地に接する道路の幅員が4m未満の場合、道路の中心から道路境界線を2m後退させること。

 

◆理由

売買の目的物に民法570条の瑕疵があるというのは、その目的物が通常保有すべき品質・性能を欠いていることをい い、目的物に物理的欠陥がある場合だけでなく、目的物の通常の用途に照らし、一般人であれば誰もがその使用の際に心理的に十全な使用を著しく妨げられると いう欠陥、すなわち一般人に共通の重大な心理的欠陥がある場合も含むと解するのが相当である。

 これを本件についてみると、Aは、本件売買契約前から、Yらに対しても、脅迫的な言辞をもって、本件セットバック部分だけでなく、Aによる建築禁止要求 部分にも建物を建築してはならないという、誠に理不尽な要求を突きつけている。このような脅迫罪や強要罪等の犯罪にも当たり得る行為をいとわずに行う者が 本件私道のみを隔てた隣地に居住していることは、その上に建物を建築、所有して平穏な生活を営むという本件売買土地の宅地としての効用を物理的または心理 的に著しく減退させ、その価値を減ずるであろうことは、社会通念に照らして容易に推測されるところである。

 しかも、Aは、妻の所有する本件隣地上の建物に居住しているから、そのようなAによる要求は、一時的なものではあり得ず、今後も継続することが予想されるところである。

 そうすると、本件売買土地は、宅地として、通常保有すべき品質・性能を欠いているものといわざるを得ず、本件売買土地には、本件瑕疵、すなわち、脅迫的 言辞をもって本件敷地部分における建物の建築を妨害する者が本件隣地に居住しているという瑕疵があるというべきである(裁判所は、本件瑕疵の存在による本 件売買土地の減価率を15%と認定し、Yらに775万5000円の支払いを命じた)。

 

◆解説

瑕疵担保責任(民法570条)が認められるには、売買の目的物に「隠れた瑕疵」があることが必要である。瑕疵とは、売買の目的物が通常備えている品質を備えていないことである。

 参考判例(1)は、マンションを家族で居住するため買い受けたところ、売主の妻が約6年前に首吊(つ)り自殺をしていた事実が判明したという事例であ る。裁判所は、目的物が建物である場合、建物として通常有すべき設備を有しない等の物理的欠陥としての瑕疵のほか、建物は、継続的に生活する場であるか ら、建物にまつわる嫌悪すべき歴史的背景などに原因する心理的欠陥も瑕疵と解することができるとした。そして、解除しうる瑕疵であるためには、単に買主が 上記の事由がある建物の居住を好まないだけでは足りず、それが、通常一般人において、買主の立場に置かれた場合に、上記の事由があれば、住み心地の良さを 欠き、居住の用に適さないと感ずることに合理性があると判断される程度に至ったものであることを必要とするとし、本件建物は、通常人において、子供も含め た家族で永続的な居住の用に供することには妥当性を欠くことは明らかであるとして、瑕疵担保責任に基づく契約の解除を認めた。

 他にも、売買の目的土地のすぐ近くに暴力団事務所が存在することが目的土地の隠れた瑕疵に当たるとして、売主に損害賠償を命じた事例(参考判例 (2))、中古マンションの売買につき、暴力団組員が居住しており組員による迷惑行為が一時的ではなく通常人にとって明らかに住み心地の良さを欠く状態に 至っているとして、買主の売主に対する瑕疵担保責任に基づく損害賠償請求を認めた事例(参考判例(3))がある。

 また、居住用不動産の売買において、隣人とのトラブルについて、売主および売主側の仲介業者に説明義務違反があったとして損害賠償請求を認めた事例(参考判例(4))がある。

 本件被告は個人であり、事業者ではないが、心理的瑕疵についての本判決の判断は、消費者判例にとっても有用である。

 

◆参考判例

  1. (1)横浜地裁平成元年9月7日判決、『判例タイムズ』729号174ページ、『判例時報』1352号126ページ
  2. (2)東京地裁平成7年8月29日判決、『判例時報』1560号107ページ、『判例タイムズ』926号200ページ、『金融・商事判例』1012号27ページ
  3. (3)東京地裁平成9年7月7日判決、『判例時報』1605号71ページ、『判例タイムズ』946号282ページ
  4. (4)大阪高裁平成16年12月2日判決、『判例時報』1898号64ページ、『判例タイムズ』1189号275ページ、『金融・商事判例』1223号15ページ

【 原文 】

国民生活センターHP -隣地住人による建築妨害が宅地の隠れた瑕疵に当たるとされた事例-