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原野商法の二次被害の事例と契約の効果

【 国民生活センターHPより転載 】

原野商法の二次被害と契約の効果

[2011年8月:公表]

 

 本件は、原野商法被害者の相続人を狙(ねら)い、測量契約と広告掲載契約を結ばせた事案(二次被害)である。(名古屋地裁平成21年12月22日判決)

 前者については特定商取引法(以下、特商法)の電話勧誘販売に該当するとし、交付された契約書面に記載の不備があったとしてクーリング・オフを認めた。後者については、消費者契約法による重要事項の不実告知による取消しを認めるとともに、動機の錯誤があり、事業者も知っていたとして錯誤無効を認め、支払い済み代金の返還を命じた。

『消費者法ニュース』83号223ページ

確定

 

 

◆事件の概要

原告:

X(消費者)

被告:

Y(測量会社)

補助参加人:

A(Yの従業員)

 Xは、一般消費者で、相続により、愛知県内に2筆の本件土地を所有している。本件土地は、現況山林で、市街化調整区域内にあり、景観計画区域にも指定され、砂防法の適用がある。しかも、一方の土地は公道に接していない。

 Yは、不動産の売買、賃貸、管理等を業とする株式会社である。

 Aは、Yの営業として、平成18年2月20日頃と3月28日にXに電話をかけ、本件土地を売却するための前提として測量を勧めた。

 同年3月30日、Yから測量工事請負契約書が送付され、Xは署名捺印してYに返送し、その後2回に分けて測量契約の代金として合計77万7000円を支払った。

 同年9月9日、Yは、Xに対して、Yの運営するインターネット上のサイト内に本件土地の売却広告を掲載することを内容とするインターネット広告掲載契約書を送付した。

 そして、同日、AはXに電話をして、10月からインターネット広告を出すので、広告費2年分を前払いで支払うよう請求した。Xは、広告掲載契約書に署名押印して返送したうえで、広告掲載料として、合計42万円を支払った。

 その後、Yは、本件土地を測量してXに図面を交付し、Yの管理するサイトに売却不動産情報として掲載した。

 Xは、平成20年11月20日、Yに対して、本件測量契約と広告掲載契約を消費者契約法4条1項1号および4条2項により解除(判決文のまま)する旨の通知を送付し、さらに同月27日、Yに対して、本件測量契約と広告掲載契約を特商法のクーリング・オフに基づいて解除する旨通知した。さらに、錯誤無効の主張もしている。

 争点は、本件取引への特商法の適用の可否、クーリング・オフの有効性、取消事由の有無、錯誤無効に該当するかどうか、事業者による履行済み測量・広告掲載の不当利得の評価などである。

 

 

 

◆理由

【クーリング・オフについて】

 測量契約については、電話勧誘販売における政令指定役務に当たるとし、特商法の適用を認めたが、広告掲載契約については政令指定役務に当たらないとして否定した。

 そして、測量契約のクーリング・オフについては、交付された契約書面には「クーリングオフにより本契約締結日より8日以内は無条件解約が出来る」との記載しかなく、クーリング・オフは書面の発信日に効果が生ずることや原状回復請求権などについての記載がされておらず、また、クーリング・オフできる旨の記載も8ポイント以上の活字(本件では7ポイントの活字だった)で赤枠の中に赤字で記載されていないことなどから、書面不備であるとして、測量契約に関するクーリング・オフについて有効と認めた。

【消費者契約法の取消しについて】

 Y側から本件土地について売却可能性があることを告げられないのにXが多額の金銭を支払うことは考えにくく、Aは、Xに対して「あなたの土地のすぐ近くまで道路ができています。あなたの土地にも影響が出ますよ。家も建ち始めています」「ぼちぼちです」といった発言をしたと認められ、Aのこうした発言は、本件土地の周辺で開発、住宅建設などがされ、本件土地にも売却可能性があるという趣旨によるものであると判断した。

 そして、Xが、Aのこうした発言で本件土地に売却可能性があり売却のために必要であると信じたために、本件測量契約および広告掲載契約を締結したのは明らかであり、本件土地の売却可能性は、消費者契約法4条1項1号、4項1号の「用途その他の内容」についての「重要事項」に当たるとして、Xの契約取消しを認めた。

【錯誤について】

 Xは、Aから本件土地に売却可能性があることを告げられ、これを信じ動機として、本件測量契約および本件広告掲載契約を締結したものであるとして、本件測量契約および本件広告掲載契約について錯誤無効を認めた。

 

 

 

◆解説

 Xは、本件土地を父親から相続したもので、本件測量契約の当時、実際に見たことはなく、法規制や周辺環境(設備状況)などからいって市場流通性がないことを知らなかった。

 Xの父親が本件土地を取得した経緯は判決上では明らかにされてはいないが、数十年前に、いわゆる原野商法によって資産運用になると勧誘されて購入させられたものと推測される。本件は、原野商法被害者の相続人を狙った、二次被害としての測量商法かつ広告掲載商法による事案と推測される。

 原野商法の被害者は、処分困難な原野を抱えて管理もできず、困っていることが多いうえに、原野商法の対象となった地域のみが細かく分筆されているので、誰でも公図や不動産登記などを調べれば現在の所有者を知ることができるため、繰り返し二次被害が発生し続けている。

 勧誘方法は電話勧誘が多く、事業者は、政令で指定されていない役務にシフトする傾向があった。本件も、測量は政令指定役務であったことから特商法の適用を認めたが、広告掲載は政令指定役務には該当しないとしてクーリング・オフを認めなかった。

 ただし、平成21年12月以降は、原則としてすべての役務が適用対象となったので、今後は、事業者による役務の種類変更による脱法行為は認められず、電話勧誘販売であれば特商法の適用があるので、書面不備があればクーリング・オフにより解決することができる。

 なお、広告掲載契約について、売却可能性が「本件役務の用途その他の内容」に該当するとして、重要事項の不実告知による取消しを認め、さらに売却可能性があるとの動機の錯誤があり、これは事業者の説明によるものなので錯誤無効に当たるとした。

 不実告知による取消しについては、契約締結の前提事実が消費者契約法4条4項の重要事項に該当するか、立法当初より議論があったが、本判決では、前提事実の土地の売却可能性は「本件役務の用途その他の内容」に該当すると明確に判断した点が評価できる。

 なお、取消し・無効の清算について、測量については測量に要した費用が事業者の損失であるが、その損失の証明がなされておらず、インターネット広告については事業者自身が管理するホームページに掲載しただけで事業者の損失はないとして、消費者が支払った全額の返還を命じた。

 また、消費者は不法行為により弁護士費用の損害賠償も求めていたが、勧誘の際に事実と異なることを述べてはいても、その程度が著しいものではなく役務を履行する意思があり、対価が提供される役務として社会通念上不当とまではいえないとして不法行為の成立は否定した。

 

 

 

参考判例 契約の前提事実(動機)について事実と異なる説明をして誤認させた場合に取消しを認めた事例

<現在使用している電話が使えなくなる旨虚偽の説明をし、リース契約を勧誘したとして、消費者契約法4条1項1号による取消しを認めた>

1. [1]神戸簡裁平成16年6月25日判決、兵庫県弁護士会ホームページ

2. [2]大阪簡裁平成16年10月7日判決、兵庫県弁護士会ホームページ

 

【 原文 】 :

原野商法の二次被害と契約の効果

http://www.kokusen.go.jp/hanrei/data/201108_1.html

【関連記事】 : 原野商法で買わされた土地を測量すれば売れると言われた

http://www.kokusen.go.jp/t_box/data/t_box-faq_qa2008_24.html